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「―――うそ、だろ?」 青年の眼の前には一人の男と、四人のよく知った―――いや、青年にとって掛け替えのない仲間が横たわっている。 「―――何を、した」 聞く必要はない。聞かなくても青年は理解している。 「見て解らんのか?」 男は、そう口にした。見て、何が起きたかを理解できないのか、と。 解る。 青年に解らないはずがない。 だが、認めたくはない。 それを、認めたくはない。 答えを、認めたくはない。 「何をしたって聞いてんだよぉおおおッ!!!!」 知らず、青年は叫ぶ。それは、認めたくない故の。叫ばないと気が触れてしまうから。 「―――知れた事。ただの初期化に他ならん」 男は青年の叫びを意に介さず、そう口にする。 「ふざけるな・・・。なんの、どんな理由があって貴様にそんな事をする権利があるってんだよぉ!!」 なお叫びながら、青年は静かに、冷静に『能力』の発動準備に入る。 「―――理由など無い」 「理由もなく、貴様は、貴様は―――」 青年は横たわる四人の掛け替えのない仲間を見据える。彼らは、もう、何も言わない。動かない。 「―――あいつらを殺したのか」 「まぁ、強いて言うならば・・・そうだな、それが私の 俺の 僕の 我の為すべき事というだけだ」 「あぁ、解った――――貴様を殺す」 ――キュンッッッッ!!!! 【荒嵐風神】 風を繰り、嵐を従える能力。 今放たれたものは、亜音速に達する真空の刃。その数は十二。 男を目掛けて、事実上不可避の真空の刃が襲い掛か――― 「ふむ、忠告が遅れたか」 「――――ッ!?」 ―――らず、男は青年の背後から声をかける。 ギャギャギャギャギャギャッッッ!!!!! 真空の刃は、男が立っていった空間を切り裂き、霧散する。 そう、男 が 立 っ て い た 空 間 を 。 「私を 俺を 僕を 我を 殺したいと思うのは君の 貴公の お前の 貴様の勝手だがな。能力を使わずに戦った方が勝機は得やすいと思うが―――まぁ、過ぎた事。存分に初期化されよ」 だが、青年の反応も然るもの。この事態に『能力』を行使し、振り返りざまに風弾を放つ―――よりも速く。 「―――があっ!!!」 電撃が、青年の身を焦がす。 それでも咄嗟に転がりながら距離を取る様子で、青年の戦い慣れというのを窺う事ができる。 事実、青年とその仲間達はこの界隈ではそれなりに名の知れたチームだった。もっとも、正義を馬鹿にし悪を笑うという類のものだったが。 「電撃の能力者・・・?」 青年は呟き、即座にそれを首を振って否定する。 確かに、男の放ったものは電撃の他にないがそれだけでは真空の刃を避け、青年の背後を取る事はできない。 そして、青年は一つの答えにたどり着く。『自らを電撃と化す』能力者だ、と。 「いや、自らを電撃と化す能力は未だ私の 俺の 僕の 我の内には無いぞ」 男は、青年の心の内に答えるかのように。 「・・・・・・未だ? まさか、いや」 「―――どれ、こうか?」 男が俺に向かって手を翳すと ―――キュンッ!!! 「!! くそっ!!!」 飛んできた真空の刃を咄嗟に嵐壁を呼び起こして防ぐ。 「今のは、俺の―――」 これでも何度も能力者と戦ってきた事がある。似た能力ならばその中で何度か見た。だが、今の能力は、威力こそ低かったが確かに俺の、 「別段驚く事でもあるまい」 驚かないはずが無い。あれは俺の能力。唯一無二の、俺の【荒嵐風神】。 「そもそもな。君に 貴公に お前に 貴様に出来ることが他人には出来ないと―――」 言葉の途中で、男は俺の視界から消え。 「―――何故、決め付けるのだね?」 トス、と。 音のした方向を見てみれば、 「――――え、」 胸から、刃物が、突き出ていた。 「―――――――こふっ」 喉に、鉄の味がせり上がってきて、ぱしゃぱしゃと地面に鮮血が降る。 「ふむ、そこのとは違い意外と頑丈だな。多少は、誇っても構わんぞ」 「ふざ、ける―――」 俺の背後から刃物を突き刺したという事は、至近距離に男が居るという事に他ならない。 だから、言い終わるより速く。速く。速く。 「―――なぁぁぁぁぁああああああっっっっ!!!!!」 ―――キュガ、という音。 自己の中心から外へ向けて【荒嵐風神】による真空の刃を四方八方三六〇度へ乱射出する事実上回避不可能の無差別絶対必殺攻撃結界。 その名『吹き荒ぶ凶陣』。 それに喰い付かれたが最後、人は人の原形を留めずに死を直視する―――の、だが。 男は、それを直視し。 ―――ザクンッ! 「―――な!?」 青年は驚愕する。 「―――ほう、私の 俺の 僕の 我の腕を喰らうか」 原形を留めずに死に至る必殺を右腕が千切れる程度の損傷で切り抜けた事を。 「さすがに、全天無作為攻撃全てを避け切る事は適わんか・・・。まぁ、この程度の損傷ならば是といった所よな。しかし、腕が無いのは存外バランスが取り辛いか・・・。ふむ・・・」 男は千切れた右腕を拾い上げ、切断面を合わせる。すると、まるで、時間が巻き戻ったかのように右腕が接続される。 「―――ッ!」 青年の、幾度目かの驚愕か。信じれない。信じたくは無い。目の前の男の能力はなんだ。電気に類するモノではないのか。一体なんなん――― 「ま、さか・・・」 そして、青年は思い至る。一つの能力のカテゴリーに。 そのカテゴリーは最強の一つとされるもの。他者の能力を複写し、自らの能力として扱う稀少能力。 「少し違うな。私の 俺の 僕の 我の能力は他者の模倣だ。複写ではない」 刹那。 ザクン、と。 音を立てて。 「な――ん、」 ゴトリ、と。 音を立てて。 「―――複写と模倣の違いを理解できぬ塵芥が多すぎるな」 男が口を開く。 青年の身体は直立のまま。 「今のは 君の 貴公の お前の 貴様の能力と他者の能力の複合に拠るモノだ。どうだね、君の 貴公の お前の 貴様の能力よりも切れ味が良かったろう?」 首は、男の足元に。 「しかし、まぁなにかね。人の話の途中に死ぬのは如何なものかと思うがね」 男はカカカ、と笑い声を上げ、それらを初期化した―――。 一刻の後。 その全てを見届けていた一羽の梟が男の頭へと着地する。 「――ホッホゥ。まぁ、殺しつくしたのう」 「アレらも元は実験体の端くれ、もう少し強度は高いと思ったんだがなぁ」 「死体はあのままでよいのか?」 梟の視線の先には肉の塊。元々何人居たか解らないほどにぐちゃぐちゃな肉の塊。 「――あぁ、あのままで構わん。不出来では在るが初期化は成った。然すれば誘蛾の一つにでも為るだろうさ」 男は笑う。 カカカカカカ、と。 こうして、日常の1コマは終わりを告げる。 ―――さぁ、明日もまた日常は続く。
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【Yi-side】 終わりました。長い長い戦いが。 文化祭の全てをかけて挑んだこの戦い、 恐らくは私たちの勝利という形で幕を閉じたのでしょう。 純「でも、どうして文集を鞄に入れると思ったんですか? 教室に残す手段もありましたよ」 澪「教室には梓がいただろ? 梓は鈴木さんが文集を買っていないことを知っている。 安易に教室に文集を残して、発見されたら言い訳のしようがない。 どこかに隠そうものなら、見張ってる私の友人が通報してくれるしね」 純「なるほど、それでこのメール、 “鞄を持って、音楽準備室に来てくれない?”ですか。 見張りまでつけて、完璧ですね」 澪ちゃんカッコいい。改めて、そう思います。 ただ澪ちゃんはそう言われたことを、不服そうにしていました。 澪「なにが完璧ですね、なんだ? 全部鈴木さんの狙い通りだったんじゃないか?」 純「……ああ、やっぱり気付いてましたか。 怪盗が二行目でヒントを与えているのは事実だと 言っていましたもんね」 澪「“誰かに謎を解かせるまでが、鈴木さんの計画だった。” そういうことだね」 私も、なんとなく、それは感じていました。 律儀すぎる怪盗。それに答えを出すのなら、 自分を見つけて欲しいというものしか、思い当たりません。 純「とあるお話の検事が言っていました。 “自分の犯罪を誇示したいというのは、 ほとんどの犯罪者心理に共通する特徴なのだ”って。 私は全犯罪者がそうだとは思いませんが、 小さな罪ぐらいなら、ちょっと誇示したくなる気持ちもわかります」 そこで私は首を振りました。 どうやら澪ちゃんも何か言おうとしたようですが、 私に遠慮して口を閉じました。 ならば、私は遠慮せずに言わせてもらいましょう。 唯「純ちゃん。純ちゃんが誇示したかったのは、 犯罪じゃないよね?」 純「どうしてそう思うんですか?」 唯「和ちゃんが、ただの悪戯に付き合うとは思えないから」 純「盗難事件がただの悪戯ですか?」 唯「文化祭は、お祭りだよ?問題にはなってたけど、 ギター以降は本当に差し障りのないことしか起きてない。 むしろイベントとして扱われていたよ」 模倣犯も出る程の。 純「なるほど。それで、私はなにを誇示したかったんですか?」 唯「ズバリ、ヒロイズムだね!」 純ちゃんは小首を傾げました。 ただ、その顔は大して不思議がっていませんでした。 唯「ここからは何の証拠も無いよ。 間違えているかもしれないよ。 でも、合ってたらイエスって答えて欲しいかな」 純「はい、わかりました」 唯「純ちゃんは映画研究会から園芸部を助けた?」 純「……イエス。って単刀直入すぎません?」 そうでしょうか。 視界の端で、澪ちゃんが頷いていました。 そこまでかなあ。 唯「え、えっとね。つまり純ちゃんは、 部費を確保できなかった映画研究会が 恨みで園芸部に酷いことをしようと知って、 和ちゃんになにかすることを提案したの」 純「イエスですね」 唯「和ちゃんはすぐに提案を受け入れてくれた?」 純「それはノーです。 和先輩はまず園芸部の部長を呼んで、 花壇に見張りをつけることを提案したみたいです。 当然ですが、何者かが狙っているなんてことは隠して。 ですがそれは叶わず、結局花壇に見張りはつきませんでした。 そのことを知らせに来たのが、文化祭前日でしたね」 それがあずにゃんに聞いた、あの呼び出し。 唯「この計画を立てたのは、和ちゃん?」 純「半々ですね。 虹の色を順番に盗む“色泥棒”を演じて、 様々な色を持つ園芸部に警告するという アイディアは和先輩のものです。 私が、最後は誰かに解かせたいと言ったら、 メッセージカードの二行目のアイディアもくれましたよ。 ですが、盗む品は私が決めました。 私が簡単に盗める……といっても、 すぐに返すので“手に取る”とだけにしましたが、 そんな品々に決めました。 ただ、返すからといって、一時的に手元から消えただけで、 とても悲しむ人もいるんですよね。 失念していました。今回の最大の反省点です」 純ちゃんは本当に落ち込んでいました。 さすがに友人を、あんな目に遭わせてしまったから……。 純「文化祭期間中だというのに、 和先輩には本当に助けられました。 瞬時に、文化祭に差し障りないものを選んで、 私に取らせる計画まで立てたんですから」 唯「正直、ここまで事件が複雑になるとは思っていなかったよね?」 純「そうですね。まさか模倣犯とは。 想定外でした。ただ、複雑になったからには、 より高みを目指したくなりましたけどね」 なるほど、なるほど。 以上のことをまとめると、つまり。 純ちゃんは園芸部を守るため、 自ら怪盗レインボーとなり、色という色を盗んで回った。 園芸部への警告というのは、恐らく文化祭新聞でしょう。 昨日の九時号に書いてありましたが、 純ちゃんのクラス、一年二組にも新聞部の子はいますし、 それとなく“園芸部が危ないかもね”と仄めかしておけば、 誘導は可能でしょう。 澪「こんな回りくどいことをした理由は?」 純「第一に、園芸部を動かすことが出来なかったからです。 まさか生徒会の一員ともあろう人が、 映画研究会の生徒を悪く言うことなんて出来ませんし、私なんか論外でしょう。 そして第二に、これは唯先輩が言いましたが、 文化祭はお祭りだからです」 澪「なるほどな……。 じゃあ、そういうことなら、梓を呼んでも大丈夫そうだな」 唯「うん、そうだね!」 犯人が純ちゃんとわかり、あずにゃんが何を思うのか心配でした。 ですが、一応真っ当な理由はあったので、 その心配は完全に無用のものとなりました。 なら、ここへ呼んでも問題はないでしょう。 澪ちゃんは携帯を取り出し、なにかに気付いて、元に戻しました。 澪「梓は携帯持ってないんだっけ。直接行ってくるよ」 そう言って柔らかい笑みを浮かべ、 澪ちゃんは音楽準備室をあとにしました。 * * * 音楽準備室に二人というのは、 あまり新鮮ではないかもしれません。 ですが、今の状況は今まで経験したことのない、 とても新鮮なものでした。 純「いやー、澪先輩ってカッコいいですよね! 本当もうなんというか、憧れますよー」 唯「だよね~! でもね、澪ちゃんは怖いものが嫌いだったりして、 可愛い面も一杯あるんだよ?」 純「おお、それはプラスポイントですね! やっぱりファンクラブが作られるだけのことは ありますね!」 純ちゃんと二人っきり。これは珍しいです。 まあ、だからといって、話題に困ることは無いですけど。 純「唯先輩って、結構澪先輩のこと好きなんですね~」 唯「いやいや、私は皆が好きだよ?」 純「私は一番澪先輩が好きですけどね。 当然、憧れっていう意味でです!」 私は……、まあ。 純「あれ、どうしたんですか唯先輩? 顔が赤くなってますよ?」 言わないで! 唯「そ、そうだ、あのメッセージカードのことだけど!」 私にとって不利な話題だったので、 あからさまに話題を変えました。 そのことを純ちゃんも少し怪訝そうにしてましたが、 特になにも言ってきませんでした。 純「あれがどうかしました?」 唯「一行目にさ、英語書いてあったよね。 Over the rainbowだっけ」 純「ああ、確かに書きましたよ。 日本語も横に書いたと思います」 唯「あの言葉にも意味があるの?」 適当に捻りだした話題。 とくに意味もないと思っていた質問でしたが、 意外と純ちゃんの顔は真剣さをまとっていました。 純「ああ、あれですか。意味ありますよ」 唯「どんな意味?」 純「虹を越えるんです。すると、なにがありますか?」 窓の外に視線をやりました。 そこに虹はありませんが、虹のある場所は空。 そこを越えたとすれば……。 唯「宇宙?」 純「いいですね、その答え。ロマンチックです」 澪ちゃんならもっとロマンチックに答えたのかなあ。 そう思いながら、少し考えました。 宇宙。レインボー。 レインボーが執着していたのは? 答え。色。 唯「黒色?」 私はぽつりと呟きました。 それに対する純ちゃんのリアクションは、 非常に大きなものでした。 純「正解です!おめでとうございます!」 唯「えへへ~……で、黒ってなに?」 純「それも当ててみせてくださいよー」 黒。黒。黒。 純ちゃんが欲しそうな、黒。 ……はっ! 唯「み、澪ちゃんは私のものだから、渡さないよ!?」 純「えっ?」 ……いま、とんでもないこと口走った気がします。 まあ、その、本人がいないからセーフです。 ドアの外で物音がしましたが、セーフです。 純「なに言ってるのか、よくわかりませんが……。 まあ面白そうな発言だったので、覚えておきますね」 止めて!すぐに記憶から消して! 純「まあ、多分唯先輩に答えは出せませんよ」 純ちゃんは思わせぶりな口調で、話を続けました。 純「きっとそうなんです」 唯「じゃあ、答えを教えてよー」 純「良いんですか?本当に?」 純ちゃんは軽い語り口であるのとは対照的に、 非常に重々しい雰囲気を発していました。 とても、言いにくいことを言おうとしているような。 思わず、唾を呑みました。 唯「……良いよ」 純「そうですか」 純ちゃんは目を瞑りました。 そして、深呼吸。目をゆっくり開かせると、 私に近づき、耳元に口をもっていき、 純「私の最後の狙い。 それは不幸を呼ぶ黒猫の天使“アズサエル”です」 突如、頭にハンマーが振り下ろされたような、 そんな気分になりました。頭痛が酷いです。 視界がぐにゃりと歪んで、 身体もふらついているような感覚に襲われました。 足も、動きません。 口だけを、なんとか動かしました。 唯「今……、なんて……?」 純「最後に私が取るターゲットは、 黒猫の天使アズサエル。人間名、“中野梓”です」 ついに足が身体を支えきれず、 私は床にへたりと崩れ落ちそうになりました。 が、純ちゃんはそんな私を間一髪のところで支えてくれました。 純「大丈夫ですか?」 唯「あ、ありがと……」 でも。 唯「どういうことなの……?」 純「まあ、人間に転生したとはいえ、 元・天使として、警告する義務があると感じたってところでしょうか」 唯「元・天使って……、えっ?」 純「あー……、それを絶対的に証明する手段はありませんよ。 でも、梓を天使だと私は知っている。 それだけで十分証拠たり得ると考えてくれれば、 ありがたいんですけど」 ……純ちゃんの目は、笑っていませんでした。 こくりと頷いた私を見て、純ちゃんは話を再開させました。 純「信じてくださって、ありがとうございます。 さて唯先輩。梓は決して悪いやつじゃありません。 でも、あいつは不幸を引き寄せるんです」 純ちゃんは顔を歪めながらも、説明を始めました。 * * * 純「それは私が天使だった頃、天使の世界で見たこと。 あいつは黒猫の姿をしていました」 はっとしました。 あずにゃんのあの姿は、仮の姿。 今までに何度か、あずにゃんの本来の姿、猫の姿を、 私は確かに見ていました。 覚えているのは、春、私が両親と遊びに行った日……。 純「私は転生する間近でした。ですから、あまり長い期間、 あいつの姿を見たわけではありません。 ですが、あいつの力は、不幸を呼び寄せる力は本物です。 唯先輩、一つ尋ねますが。 梓が来たことで、不幸が降りかかりませんでした?」 すぐに思い当たりました。酷い嫌悪感を覚えました。 勿論、自分に対して。 春。あずにゃんが新聞を持ってきました。 私はそれをきっかけに、その新聞に載った事件を 解決する羽目になりました。 園芸部の裏に隠された事情を知りました。 私の中で、なにかが壊れました。 この一件で、私と園芸部の人は、 ちょっとしたお知り合いになりました。 その関係で、園芸部の人は花を一つ持ってきてくれました。 花弁が落ちました。 おかげで私は、抱きたくもない疑念を抱いてしまいました。 あれは最低な勘違いでした。 そういえば春の事件のことを、私は和ちゃんに話しました。 和ちゃんはそれで、園芸部の部費を追加を提案してくれたと 聞いています。そして秋。部費が足りていないために、 映画研究会は文化祭への出展を諦めました。 その怒りの矛先を、園芸部に向けました。 全ての発端は、どこにあったでしょう? 園芸部でしょうか? いいえ。 私と園芸部を繋げたのは、紛れもありません。 “あずにゃんです。” 唯「は、ははは……」 純「……梓も、悪気があったわけではありません。 あいつはきっと、自分を変えようとしたんでしょう。 人に笑顔を振り撒き、幸福にしてくれる先輩の近くに行って、 不幸を引き寄せる自分を」 唯「……そっか。そうだったんだね」 あずにゃんと出会った日、私はなんと言われたでしょう。 天使みたいにふわふわした人、でしたか。 とんでもない嘘つきですね。 天使である自分と、対極の人間を選んだのに。 唯「それで……、あずにゃんをどうするの?」 純「私はどうにも出来ません。 それを理解した上で一緒にいるのであれば、 なにも言いませんよ」 ただし。 純「リスクは避けられないと思ってください」 まあ、そうだろうね。 心の中でそう呟きました。 純「……ここが防音に優れている部屋で良かったですね。 扉の外に、いますよ」 唯「いるね。澪ちゃんと……、あずにゃんが」 純「どうするんですか?」 唯「私は変わらないよ。変わったとしても、元に戻る」 純「……それは、もう……」 純ちゃんは何かを言おうとしたようでしたが、 口を閉じました。 その続きの見当は、つきました。 唯「ありがとうね、純ちゃん。色々と。 それと、そう知っていながらも、あずにゃんの友達でいてくれて」 純「私、カッコ悪いことは嫌いですから」 唯「そっか。じゃあ、今の私は、嫌い?」 純ちゃんは呆れたような笑みを浮かべました。 張り詰めていた空気が、緩んだ気がしました。 純「むしろ、私好みですよ」 * * * 私と純ちゃん、二人で扉を開けると、 案の定、そこには澪ちゃんとあずにゃんが立っていました。 あずにゃんは平然としていましたが、 澪ちゃんは頬を赤く染めていました。 まさか、あれ、聞かれちゃったかな。 純ちゃんがお先に失礼しますと、階下へ。 その際にあずにゃんにレインボー事件のことを話すため、 連れていってしまいました。 残った澪ちゃんは、どこか気まずそうでした。 ああ、これはやっぱり聞かれちゃったな、と。 そう悟りました。 ……それなら、かえって好都合。 そう考えるのは、楽観的すぎるのでしょうか。 唯「澪ちゃん!」 澪「な、なんだ?」 唯「……一緒に、帰ってくれるよね?」 沈黙。とっても幸せな。 私は澪ちゃんの返事をいつまでも、いつまでも待つつもりで、 真っ赤に染まったその顔を、まじまじと見つめていました。 ああ、今日の夕日はなんて綺麗なのかな。 少し、怖いぐらいに。 ―――文化祭。真相。 怪盗の目的は人を守るためのものでした。 天使を守るために奔走した私たちと、同じように。 怪盗は、空に色々な虹をかけました。 その虹は何色あるでしょう。 七色でしょうか。五色でしょうか。 数えられないほど、あるのでしょうか。 それとも…… 唯(“誰もが、一色だけでも、自分の色を隠している。” ……今回学んだ、私なりの教訓だね) わざと数えていない色も、あるのでしょうか。 第十四話「天使が見えた日」‐完‐ ―――第十五話に続く 32
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2009年7月20日 締 切 新聞論評 学籍番号1914078 氏名 [[水長一輝] 1.新聞情報 見出し 民主300超 政権交代 発行日 2009年08月31日 新聞社 日本経済新聞、朝刊 面数 1面 2.要約 第45回衆議院選挙は30日投票、即日開票された。民主党の獲得議席は定数480のうち300を超える圧勝の勢いで、政権交代が確実となった。民主党の鳩山代表は9月中旬に召集を予定している特別国会での首相指名選挙で首相に選出され、社民国民新党との連立政権を発足させる。(124文字) 3.論評 1955年の保守合同以来、形は変えては命脈を保ってきた自民党政権に終止符が打たれた。劇的な政権交代なのに、世間はどこか冷めきっている。冷戦構造が崩れて20年、戦後日本の成長モデルそのものといえた自由民主党に、有権者は強烈な「ノー」を突きつけ次の4年を巨大民主党という未知なる「非自民」に委ねた。今回の選挙の結果に比較的冷静なのは、4年前の郵政選挙の経験があるからであろう。当時の小泉首相は郵政民営化に賛成する革命派と、これに反対する勢力を分類することで「自民対民主」ではなく、「自民対自民」の選挙構図を作り出して圧勝した。 民主300越えて政権交代になったが私自身、鳩山代表には期待していない。なぜなら、マニュフェストを発表しているが原則守るみたいなことをいっている。高速道路の原則無料化なんて出来たとしても、今まで高速道路のでの収入は約2兆円だ。日本はそもそも借金大国で今の政治家は考えることがおかしすぎる。高速料金を無料にすることによることにより、今まであった約2兆円のお金を補う為には消費税をあげて国民の負担になることは間違いないであろう。消費税を上げるなら、医療機関での治療を更に安くするべきであると私は考えている。政権交代をして、鳩山代表がどこまでマニュフェストを実行できるかが楽しみだ。 (542文字)
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2010-06-23 21 26 31 | Weblog 相手が興奮しているからと言って、こっちも声を荒げてはいけない。 「興奮してる」と言われないためには。 だけど、穏やかに言うと、 「馬鹿にしてるっ!!」って怒られちゃうんだよな~。 そうだよな~。 私だって、相手がアホな主張を穏やかに 「あら、あなた興奮しないでくださいな。怖いわ~。私は興奮してませんのよ~」 みたいに話されると、頭くるもんね。 そうなの。 今思い出すと、私がそういう穏やかな反論された場合って・・・・・ そういう場合に限って、相手の主張がアホなの。 噛み合ってないの。 全然的を射ていないの。 何故? でも、そうなんだけど、表面的にみると、私だけが興奮して噛みついているように見えて損なのだよ。 だから、噛みつかれた方がやり易いよな。 私の主張は、(相手よりは)論理的だ。 和をもって貴しの日本人なら、双方ともに悪いイメージがするだろうけど、 論理的主張を好む人なら、客観的に判断を下してくれるだろうから。 ってか私、いつも論争相手に恵まれないなあ。 あ~、やだやだ。 多分、かしこい人は、そもそも私なんかと話さないから。 別の世界にいらっしゃるんだろう。 こんな低次元なところじゃなく。 そして、低次元なところにいる私も低次元な人間なのだよ、しょせん。
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Q: 77 :ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン :2008/03/02(日) 01 52 17 ID QP00/YBQ 友達とハメ狩りに行ってきたんですが、常識的に考えてハメられてる事に気付かないんでしょうか? 圧倒的に不利な状況(ワンサイドゲーム)と普通は気付きそうなもんですが。 A:78 :ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン :2008/03/02(日) 02 13 50 ID zhY3IX8f 77 モンスターは、狩られて死ぬなり捕獲されるのは一度きりです。 狩られるまでは、ハンターは返り討ちにしているか、あるいは一度も戦っていません。 だから、ハメられても、自分が絶対的に不利だということに気づかず、いつか殺れる、いつか殺れると思って、いつの間にか狩られてしまうのです。 79 :ヽ(`Д´)ノ ウワァァァン :2008/03/02(日) 04 50 43 ID wuLQ2yGz 77 気づいたときにはもう遅いからハメなのではないでしょうか? 逃げる余地があるならそれはハメではありません。 また、分が悪いと思っていても引くに引けないときというものは往々にしてあります。 あなたもクレーンゲームで大金を失った経験などはないでしょうか? ハメ モンスター
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2023年12月23日 出題者:SUFUREE タイトル:「泣かないで、私の恋心」 【問題】 ヒロシとセマシはクリスマスに互いに同じものを送り合った。 ヒロシはそれを貰って喜んだが、セマシはそれをすぐ捨ててしまった。 一体なぜ? 【解説】 + ... ヒロシとセマシはたまたま同じ日に互いに年賀はがきを送った。 セマシが送ったお年玉つき年賀はがきはなんと当選。粗品を手に入れたヒロシは喜んだ。 対してセマシはお年玉くじに興味が無く、年賀状を取っておかない性格だったので早々に年賀はがきを捨ててしまった。 配信日に戻る 前の問題 次の問題
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気付かないのはお約束 ◆wivGPSoRoE 静寂が支配する町を風が吹き抜け、街路樹の葉がさわさわと揺れる。 動くもののない町の夕暮れは、どこか異様なものを感じさせていた。 と、その時、コンクリートの大地に二つの人影が伸びた。 伸びた影の一つがゆらゆらと左へ右へと揺れ―― 「ケン!」 倒れかかるケンシロウの体をキュルケは慌てて支えた。 一瞬遅れて、その細い肩にかなりの重量がのしかかる。 「……大、丈、夫?」 奥歯を噛み、足を踏ん張りながら、キュルケはなんとかその言葉を喉の奥から搾り出した。 「……無論だ」 肯定の内容とは裏腹に、その声音から、ケンシロウの疲労と肉体的損耗を類推するのは容易だった。 鋼の体を持つ北斗神拳伝承者とて脳だけは鍛えることができない。 DIOの放った一撃は、ケンシロウの両目から光りを奪うだけでなく、頭部に深刻なダメージを与えていたのである。 「ぐっ……」 呻き声と共にケンシロウが掌で口を覆ってしゃがみこむ。 堅く閉じた口元から嫌な色の液体がこぼれ、ケンシロウの掌をすべり落ちていく。 (マズイわね……) チラリとキュルケは後方に視線を送った。 アカギという男に時間を稼いでもらったおかげで逃げ出すことはできたが、あの大男――確かラオウといった――は、 尋常ではないスピードの持ち主だ。 一刻も早く遠ざかる必要があるのだが―― (ケンがこの調子じゃ、このまま歩いて移動していたら、追いつかれちゃうかもしれないわね) 方法が無いことも無いのだ。 しかしながら、ケンのダメージは重く、キュルケ自身も本調子とはいえない上、既に魔法を少なからず放っている。 だがしかし。 (やるしかないわ!) どこへ行ったか知る手段が無い以上、ラオウが自分達を見失う可能性は低くない。 けれど、あまりにも見つかった時のリスクが大きすぎる。 今、ラオウに見つかれば間違いなく自分達を待っているのは―― 死だ。 決断すると後は早かった。 ケンシロウの腕の下に自分の体を差し込みながら 「ケン、私につかまって」 「しかし――」 「いいから!」 ケンシロウの反論を一言の下に封殺し、 「ケン、まさかあなた、まだ私を無力な女だと思ってるんじゃないでしょうね?」 一瞬の沈黙の後、 「そんなことはない。さっき、俺はお前に命を救われた。 お前の炎がなければ俺はラオウの拳を受け、命を落していた」 「だったら今あなたのすべきことは、黙って私に身を委ねることじゃなくて?」 不敵さを感じさせるキュルケの声音に、ケンシロウの唇がわずかに綻んだ。 「……分かった。すまないが、頼む」 「任せて!」 言い終えると同時にキュルケは『フライ』を発動させた。 二人の体が宙に浮き上がり、それなりの速度で宙を滑空していく。 (……こ、れは……思ったより……きつい、わね……) 当然ではあるが、一人を飛ばすより二人を飛ばせる方が精神力を使う。 高く飛び上がれば、ラオウや勝ち残りを狙う者に見つかってしまうから、 高度を家屋よりも低い高さに調整しなくてはならない。 高い集中力を要する飛行高度の調整に、精神力が思った以上に削られていく。 加えて、先ほどからたまに襲ってくる頭部の鈍痛。 気を抜くと精神の糸が切れしまいそうだ。 キュルケの食いしばった歯から苦しげな息が漏れ、額に脂汗が浮かぶ。 (負けるもんですか!) 気力という気力を総動員してキュルケは前方を見据えた。 ――どれくらい飛んだろうか? それほど時間はすぎていないはずだと、わずかに残った頭の冷静な部分は申告するが、 キュルケには何十時間にも感じられていた。 (こ、これくらい、きょ……り……かせげれ、ば……十分……か、しら?) ガクンと落下する感覚。 総毛立つ感覚に襲われ、キュルケは慌てて体勢を立て直し、高度を上げた。 だが、一瞬引き寄せた意識がまたも遠ざかっていく。 滑りやすい意識の髪の毛をふんづかまえながら、キュルケは狂おしい目で辺りを見渡した。 ――あそこに! キュルケの目は巨大な施設に吸い寄せられた。 あれだけ大きければ、身を隠すこともできるし、どこからでも逃げられる。 体を休ませるにはうってつけの場所だ。 最後の力を振り絞って、入り口とおぼしき場所まで辿り着き――。 地を踏む感覚が脳に伝わった瞬間、キュルケの意識は途切れた。 ■ 「……ん」 ぼやけた視界に飛び込んできたのは、見知らぬ天井だった。 柔らかい感触と清潔なシーツの臭い。身じろぎすると、体の下でスプリングが軋んだ。 (ここは……。ええと……) 思考が上手く働かない。 「まだ、動かない方がいい」 聞えてきた低い穏やかな声に、キュルケは小さく笑みを浮かべた。 自然と体から力が抜けていく。 ほうっと、キュルケは丸い息を吐いた。 ――やり遂げた。 ケンシロウをあの男から、逃がすことができた。 そのことがたまらなく嬉しい。 首だけを動かして、声のした方を見る キュルケの眉が上がった。 「もう一つベットがあるんだから使えば? そんな格好で休めるの?」 ケンシロウは回復と精神統一のために部屋の隅で座禅を組んでいたのだが、 座禅など見たことの無いキュルケには、ケンシロウの座り方は奇異に映ったのである。 「ああ、大分楽になった……。キュルケ、お前のおかげだ」 確かにケンシロウの声には張りがあり、覇気が戻りつつあるように感じられる。 吐き気もおさまっているらしく、その背筋はピンと伸びていた。 「どういたしまして」 心地よい満足感が込み上げてくるのを感じ、キュルケは小さく微笑んだ。 だが、すぐにその笑顔は淡雪のごとく消えてしまう。 「ケン……。その眼……」 出血こそ収まっていたが、ケンシロウの両目は堅く閉ざされており、 目の周りには生々しい傷がある。 「大丈夫だ」 ケンシロウは穏やかに答えた。 「眼は見えずとも戦い続けた男がいた。その男が俺の中で生きている」 どこまでも優しく、死すときも微笑んで死んでいった男、仁星のシュウの笑みが、ケンシロウの脳裏に浮かぶ。 シュウ、そしてシュウの息子シバによって永らえた命。 ここでシュウのように光を失うのは天命だろうと、ケンシロウは思っていた。 それに、光を失うのは初めてではない。 ラオウを倒さんとした南斗五車星の一星、海のリハクの仕掛けによって一時的に光を失っていた時期もある。 行動に支障は無い。 「目は見えずとも心で気配を感じることができる。心配するな」 キュルケを安心させるように微笑みながら、 「なんにしても……。お前には借りができてしまったようだな」 返事はなかった。 「……どうした?」 困惑の成分が微量含有されたケンシロウの問いかけに、 「ごめんなさい……。ちょっと、思い出しちゃって」 ――1個借り。 はにかんだ調子の呟きが耳の奥で蘇ってくる。 「タバサ……。無事だといいけど……」 秀麗な顔に苦渋の皺が刻みながら、キュルケは呻いた。 ――甘く見ていた。状況を。敵を。 油断があった。 魔法を使う自分達がよもや、魔法の使えぬ「平民」に負けるはずがあるまいと、心の何処かで思っていた。 本当はもっと前に気付かなければならなかったのに。 神楽にアッサリと昏倒させられた時に、気付かなければならなかったのに。 (タバサ……) タバサの強さは知っている。 彼女は卓越した魔法の使い手であるだけでなく、何度も修羅場をくぐりぬけている歴戦の戦士でもある。 それでもおそらく、あのDIOという怪人、自分の炎を弾き返したラオウという男、 そしてユウジロウという赤髪の鬼。 彼らには―― 勝てない。 キュルケの苦悩の皺が深さを増した。 「タバサというのは――」 「……友達よ。雪風のタバサ。私の大事な……親友なの」 「そうか」 ケンシロウの深みのある声音が鼓膜を震わせた瞬間、キュルケの感情が迸った。 「あの子は……。ずっと、ずっと一人で戦って――いいえ。戦わされてきたわ。 誰も側にいなくて。一番側にいて欲しい人はもう奪われていて……。 そのせいで雪風なんて二つ名をつけられるくらい、心を凍り、つかせて……」 無表情。無関心。無感動。 それがトリスティン魔法学院の学友達の、タバサに対するイメージだろう。 ――でも違う。 違うことを自分は知っている。 タバサの凍てついた心の中に熱いものが渦巻いていることを。 あの日、初めてタバサの領地で真相を聞かされた日。 寝室でうわ言を繰り返す彼女の声を聞いたあの時。 この小さな友人の助けになりたいと思った。 彼女の心に吹く雪風を吹き払ってあげたいと思った。 「――行きましょう、ケン。もう十分すぎるほど休んだんですもの。 ぐずぐずしている時間が惜しいわ。まずは、病院に行って神楽と合流しましょう。 それから――」 胸を焼き焦がす焦燥の炎に追い立てられるまま、キュルケは枕元においてあった杖に手を伸ばし、立ち上がった。 一刻も早くタバサと合流しなければならない。 ラオウのような、DIOのような、ユウジロウのような悪魔達と彼女が出合ってしまう前に、 会わなければならない。 タバサには、あの小さな友達には、やらなくてはならないことがあるのだから。 「よせ! まだ早い。お前には休息が必要だ」 「平気よ!」 言い返しながらケンシロウの側を通り抜けようとして―― ぐらりと自分の体がかしぐのを、キュルケは感じた。 床が見る見るうちに視界の中で拡大していく。 誰かに抱きとめられた。 「……お前に何かあれば、そのタバサというお前の友が、きっと悲しむ」 耳元で声がする。 「分かってるわ。でも、私は――」 ケンシロウの言葉に抗うように、キュルケは身を捩った。 「信じることだ。 お前の友がお前を信じているように、お前も友を信じてやれ」 深く慈しみに満ちた声だった。 掌からケンシロウの熱が伝わってくる。 (どうしてこんなに、安心できるのかしら) ケンシロウといると、柔らかくて暖かいものに包まれている気がする。 本当は、このままこの暖かさに身を委ねてしまいたい。 だがしかし、今はケンシロウに甘えるわけにはいかないのだ。 「でも、神楽と合流しないと!」 自分を包む温もりに負けまいと、キュルケは叫んだ。 「……神楽は無事だ。おそらくな」 ケンシロウの口から漏れた驚くべき言葉に、キュルケはマジマジとケンシロウの顔を見つめた。 「まずは休め」 キュルケをベッドに横たえ、ケンシロウは口を開いた。 「お前が眠っている間に、色々と考えた。 まず、ジグマールの言っていたことについてだが……」 「ルイズや神楽の知り合いのギントキって人を含めた5人組と会って情報交換した後、 その5人組に襲われたっていう、あれね?」 「あれは虚言だろう」 ――え!? 「……ちょ、ちょっと待って! ケン!」 考えるような仕草をしながら、 「ヒコウをついて偽証を不可能にした、ジグマールの言葉に嘘はない。 そう言ったのは、あなたよ?」 「確かに言った。 だが……ジグマールは、DIOやカズマという男のように、 秘孔が効きにくい、もしくは、効かぬ人間であるかもしれない」 「なっ……」 絶句するキュルケに向かい、ケンシロウは淡々と続けた。 「お前たちと出会う前、俺は、カズマという男と戦い、その男に北斗繰筋自在脚を叩きこんだ。 この技を受けた者は全身の筋肉が30分は弛緩した状態になり、その間は立つこともできなくなる。 だが、カズマという男は立ち上がってきた。 そして、あのDIOという男に秘孔は通じなかった……」 DIOだけならば、カズマだけならば、例外もしくは桁外れの精神力による奇跡ということもできようが、 秘孔が効かない人間が二人も存在するとなれば、話は変わってくる。 もっとも、本来ならばカズマが秘孔を受けて立ち上がってきた時点で考える必要があったのだ。 秘孔の効かない人間の存在を。 だが、『秘孔の効かない人間』というものを考えた時、ケンシロウの脳裏に浮かぶのは、 聖帝サウザーの姿だったのである。 ここに思考の落とし穴があった。 サウザーは単に秘孔の位置が常人とは異なっていただけであって、 秘孔を突いた時の効力は、同じだった。 ゆえに、通常と同じ場所にある秘孔をついた場合でも同じ効力が発揮されるとは限らない、 という発想ができなかったのである ――違うな。 ケンシロウの鉄の如き表情がわずかに歪んだ。 ――認めたくなかっただけだ。 秘孔が効きにくい、そして通じない人間がいるということを。 ケンシロウの握り締められた拳がみしみしと音を立てた。 言うまでもなく、ケンシロウは傲慢さや慢心とは縁遠い男である。 だが、北斗神拳を一子相伝の最強の拳法と信じていたのもまた、事実なのである。 北斗神拳は尊敬する兄達が全てをかけて求めた拳法なのだ。 北斗神拳が、唯一無二の最強の拳法でないことなど、あってはならない。 ケンシロウの心にこのような感情があったことを、誰が責められようか? だが、ケンシロウは憤る。 ある意味慢心ともいえる思いを、増長ともいえる思いを、抱いていた己の未熟さが、許せずに……。 「――ケン?」 キュルケの問いかけに、ケンシロウはようやく怒りの井戸の底から浮上した。 類稀なる精神力と自制心を発揮して井戸に蓋をし、 「とにかく、違う世界の人間には秘孔が通じぬ場合がある、ということだ」 「じゃあ……」 「ジグマールが5人を襲って返り討ちにあったのか、 それとも彼らと何らかの諍いを起こして追い出されたのかは分からない。 だが、ジグマールが腹いせとして俺達に5人の悪口を吹き込んだけであると考えたほうが、辻褄が合う」 キュルケは大きく首肯した。 「そうよね……。大体にして、まず5人っていうのがおかしいのよ。 他の人間を皆殺しにして勝ち残りを狙う人間が、誰かと組めるわけないじゃない。 信用できない人間と組んでたって、いつ寝首をかかれるか分からないんじゃねえ……」 「そういうことだ。 それに俺は、神楽の仲間が、友を殺して生き残ろうという人間であるとは、どうしても思えん」 「ケンの心がそう感じた……のよね?」 ケンシロウが頷くと、 「私もよ」 キュルケは花が開くように笑った。 ――まるでダメなオッパイお化け――――略してマダオ!!!! 確かに神楽は、気が強くて口が悪く、おまけに短気だ。 けれど。 ――ごめんなさい。 素直で子供らしいところもあり、 ――こんな殺し合いに乗った馬鹿は私がぶん殴ってでも止めてやるネ。 正義漢も強い。 そんな神楽と一緒に暮らしていた人間が、他者を殺して生き残るという選択をするとは、 キュルケにも思えなかった。 「じゃあきっと神楽は今頃、仲間と合流してるわね……」 ほおっと深い息を吐いて、キュルケは安堵の笑みを浮かべた。 「よかった……。本当に」 本当に良かった。 友人同士で相争うことにならくて、本当に――よかった。 ラオウやユウジロウとて手負いだ。神楽も含めて 6人もいる集団に手は出すまい……。 安堵の息を吐いて、キュルケはベッドに倒れこむ。 その時、ふっとケンシロウが笑った気配が伝わってきて、キュルケは顔を上げた。 「どうしたの? ケン」 「……シュウが、俺の友が言っていたことを思い出した。目が見えぬ代わりに心が開いた、と」 「開くとどうなるのかしら?」 「前には、見えなかったものが見える」 きょとんとした表情を浮かべるキュルケを尻目に、ケンシロウはどこか楽しげな笑みを浮かべた。 (俺にははっきりと見える。お前の優しさと、友を思う熱き心がな) ケンシロウの笑みにつられるかのように、キュルケも照れたような表情を浮かべて応じる。 暖かな空気が流れるのを二人は感じた。 ややあって、ケンシロウは笑みを消し、キュルケの方に向き直った。 「キュルケ……。聞きたいことがある?」 「何かしら? 私に答えられることなら何でも答えちゃうわよ?」 「俺があのDIOという男に、剣のようなもので刺された時、そして目を抉られた時、 お前から見て、あの男はどう動いたように見えた?」 空気が張り詰めるのを二人は感じた。 ■ 「まず俺から、ありのままにさっき起こった事を話そう。 DIOは『俺の目の前から消えて側面に移動し、どこからか剣を取り出し、 それを突き刺すという動作を全て同時に行った』 DIOは、『離れた場所から俺の目の前に移動し、目突きを俺の両目に叩きこむという動作を、 同時に行った』 何を言ってるのか分からないかもしれない……。 正直なところ、俺にもいまだに何をされたのか、わからない。 しかしあれは、毒や催眠術で俺の知覚を誤魔化したとかそういうことでは断じて無い。 あれは何か、もっと別のモノだ」 ケンシロウが口を噤むのをまって、今度はキュルケが口を開いた。 「そうね……。ケン、今あなたが言ってくれたことと全く同じよ。 DIOが消えたと思ったら、あなたの体に剣が刺さっていたわ。 そして、また消えたと思ったら、DIOはあなたの両眼に指を突き立てていた……。 そりゃあなた達の攻防に全然ついてはいけなかったけど、動作の影ぐらいは追えていたのに、 あの時だけは、本当に何も見えなかったわ」 「……やはりな」 キュルケの言葉にケンシロウは小さく首肯した。 「DIOはおそらく、『一瞬のみ普段の数百倍もの速さで動くことができる』能力の持ち主だ。 俺はそう考える」 『どこからか剣を取り出す』『移動する』『刺す』という動作を同時に行うことは不可能だが、 動作と動作の間隔を極限まで縮めれば、限りなく『同時に』行ったことに近づけることができる。 DIOが『同時にやったと相手に誤認させて』いるのではなく、『実際に同時に行った』とすれば それしか考えられない。 キュルケの言葉を聞いてケンシロウは自分の推論が正しいだろうと考える。 離れた場所にいたキュルケにまで気を配り、DIOが自分と同時にキュルケにも何らかの術をかけたとは、考えにくい。 目の前にいる敵を相手にしながら、他の人間にも気を配る余裕があるなら、まわりくどい手段を使う必要は無い。 その余裕を目の前の敵に向けて、全力で倒してしまえばよいのだ。 「でもそんな技……。どうやって防げば……」 ごくり、とキュルケは喉を鳴らした。 「心配するな。俺も何らかの手段で、DIOの知覚を妨げるぐらいしか方法は思いつかんが、 俺にはまだ、奥義が残っている」 北斗神拳究極奥義無想転生。 己の体を無として敵の攻撃をかわし、そこから転じて敵に攻撃を叩きこんで粉砕し、生を拾う。 究極奥義と呼ぶにふさわしい、攻防一体の絶技である。 先ほどの闘いでは、南斗紅鶴拳、伝衝裂波を使っていたため攻撃を受けからの発動になってしまったが、 初めから使っていればDIOの技量では夢想転生を見切ることはできない―― はずだ。 キュルケの顔が喜色に輝いた。 「すごい! 本当にすごいわ! ケン」 「だが、この奥義は俺一人の物、誰かを守ることはできん……。 キュルケ、次に俺とDIOが戦う時は、俺から離れていてくれ。 そして俺が倒れなら迷わず逃げろ。お前ではあの男の相手は、はっきりいって荷が重い」 「そんなこと、できないわ!」 間髪いれずに響いた拒絶の言葉に、ケンシロウの眉がピクリと動いた。 「ケン、あなたも気付いているはずよ。 DIOはあの技を無制限に使えるわけじゃない。 まあ当然よね。使えるなら、何度も連続で使えばいいんですもの。 そうすれば、あそこにいる人間を皆殺しにすることだってできたはず。 それをしなかったってことは、私達メイジの魔法と同じように、使える回数に限度があるってこと……。 もしも仮に……。勿論私は、あなたが勝つって信じてるけど、 あなたが負けた時は、私があなたの仇を討つ」 「キュルケ……」 「ケン、私の世界ではね……。魔法を使えるものを貴族というんじゃないわ。 決して敵に後ろを見せないものを貴族というのよ!」 キュルケの声には確固たる意志の響きがあった。 「まあ、今のは友達の受け売りなんだけど……ね。 でも仲間がやられたのに、そこで尻尾を巻いて逃げることなんて、私にはできないわ。 ましてやそれが……。ましてそれがあなたなら、なおさらよ!」 数瞬の沈黙の後、 「……分かった」 ケンシロウは居住まいをただすとキュルケに向き直った。 「友情に熱き女、キュルケよ。お前の炎にも似た熱き思い、確かに受け取った。 ならば俺も誓おう。お前が倒れることがあれば、お前の代わりに戦うことを」 重々しい口調で誓いの言葉を発した後、ケンシロウは表情をわずかに緩め、 「キュルケ、俺はお前と「友」になれたことを、心から嬉しく思う」 返事は返ってこなかった。 「……キュルケ?」 微量の困惑の粒子を含有させて、ケンシロウは疑問を発した。 自分なりの最大の賛辞を送ったつもりなのだが、何故かキュルケが頭を抱えている気配が伝わってくる。 「ご、ごめんなさい……。ちょっと、胸が一杯になっちゃって……。 ええ! 私も嬉しいわ、あなたと出会えて!」 「そうか……」 どこか満足そうな表情を浮かべるケンシロウを見て、キュルケの頭がガクンと下がった、 ――分かってない。 おそらくマミヤやバットが入れば、苦笑を浮かべて頭を振った後、 フォローの言葉の一つも発したかもしれないが、残念なことにそんな人間は、この場にいなかったのであった。 後編
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日向坂で会いましょう #194 ツキで年女が決まるMidnight! 第1回ラッキーガール選手権!! 高瀬のいつものギャグ。 第1回ラッキーガール選手権と題して、新春の運試し企画が行われた。高瀬は予選Cブロックのロシアンラビット(箱に落ちてはいけない椅子取りゲーム)に参加した。 2曲目♬誰よりも高く跳べで、春日の目の前の席を選んだ結果ハズレ箱に落ちてしまい脱落した高瀬。「春日さんを信じてここを選んだら、落ちちゃった~」と訴えると、春日は「私が並べた訳じゃないからね」と無実を主張した。 悲しげな表情を映そうと寄ってきたカメラマンに、高瀬は「寄ってこないでよ」と手で追い払い、袖で涙を拭うポーズを魅せた。若林に「いつものギャグのね、『寄ってこないでよ』も出たところで……」と言われ、見事な幕切れを作るとともに、新たな武器を獲得した。
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甘くはないですよ やっぱり返さないと情けない でも分からないものは分からない 「ここに来んのも久しぶりだわー」 ツンツンに逆立てた茶髪に攻撃的なつり上がり気味な、目付きの悪いすらっとした男は、連れ立って来た短髪黒髪の普通体型な同年代の男に聞かせるよう空に向かって独り言を吐き出した ツンツン茶髪の男ハンドルネーム『名無しのバーテン』は、日本帝都東京内の某所に佇む飲食店の店員だ 給金は月25~30万とそれなり 色々と入り用な帝都でも彼くらいの稼ぎがあればなんとか生活が出来る程度には頑張っていた 「よくここで沈んだりハイになったりしたもんだ」 夢は官僚か政治家か 国を動かす立場に立ちたかった男は夢破れて今を生き昔を懐かしむ 日ごと報道を賑わせる国会の場にもしかしたら立っていただろう自分を幻視して 「この公園に思い入れでもあるの?」 彼の心中預かり知らぬバーテンの連れ ハンドルネーム『名無しの無職』は、何かを思い出している彼を見て問いかけていた 「特別な場所に聞こえたんだけど」 「んーまぁ、思い入れっつーか、今の人間関係が出来る元になった場所なんだよ。夢とか何とか考えたり、クララと出会ったのもここ。このベンチでさ。V.V.のおっさんやマリーベルと出会ったのもここなんだ」 「へぇ、さしずめ人生の交差点か」 「んな大袈裟なもんでもねーけどな」 失敗人生始まりの地でもあると、バーテンは自嘲気味にからから笑いながら手に持つ缶ビールを仰ぎ飲んだ 「失敗人生ねぇ、俺にはそうは思えないよ」 「なんでよ? 俺ってば最終学歴三流高校なんだぜ。大学受験なんて全部失敗だしさ。成功人生とはとても思えねー」 「大学行ったからって成功するとは限らないよ。俺を見ろよ。いま無職で親からの仕送りに頼って生きてるんだぞ? どうだい成功してるよーに見える?」 「いや、そりゃなあ、まあ」 バーテンの自嘲に無職は自嘲で返礼をした 「バーテンはさ、成功はしてなくても失敗はしてないよ」 「そっかなぁ」 「そうだよ」 バーテンは彼自身が知らないだけで、築き上げていた人間関係についてだけを見てみれば、無職の知る人間の中では最も大成していると断言できてしまう男なのだ 彼を思いやる人たちに彼は囲まれている 彼を心配する人たちに彼は囲まれている 彼を愛する女性からは海よりも深い愛情を寄せられている それだけを以てしてもバーテンは誰よりも成功者なのだと無職は思った 人間関係を構築するのは一朝一夕でどうにかなるものじゃない 長い時間が必要だ 家に籠りきりだった自分にはただ無為に過ごしてきた時間しかないのだと無職は考えていた 「俺なんて家族との付き合いはない、友達いない、知り合いなんてネットの中だけだったんだ。最近になって生まれた交遊関係だっておまえを通じてのものじゃないか。おまえは俺よりもずっといい環境にいるよ」 それにバーテンは無職ではない。飲食店店員といった平社員だがランペルージグループの末端社員でもある 大人しく今を享受しながら真っ当に生きてさえいれば順風満帆な日々を送れるのだ 「それなのに失敗なんて言ってたら殴りたくなる」 得てして恵まれた環境に身を置く者は、自分が如何に恵まれているのかに気づかない 知らないだけで羨まわれる場所に彼はいるのだ バーテンには分からずとも無職には分かること 彼との交遊関係を築いたことでそのおこぼれを与っているのは誰あろう無職自身だという事だった 「殴んのはやめてくれマジに。こないだあの糞ジジイに殴られたばっかしなんだから勘弁だぜ」 糞ジジイ バーテンがそう呼ぶ人は世界も視野も共に狭しな彼の中では一人しかいない おっさん、ジジイ、爺さん、ガキみたいな年寄り まるで悪口の羅列とも受け取れよう罵りを吐かれているその人は確かに年輩の人で 見た目だけなら小学生そのものな、色素の薄い色の金髪を踵まで伸ばした不思議な雰囲気を持つ人物だった 名無しの無職はその人とも面識がある 何度となく見舞いに訪れていた病院で顔を合わせた、バーテンの東京での身元引き受け人の人であった その正体はバーテンに好意を寄せている二人の女性、その人の実子クララ・ランフランクという可憐な美少女と、ブリタニア帝国の戦姫、第88皇女マリーベル・メル・ブリタニアの実の伯父なのだ ブリタニア帝国皇帝の兄 皇籍を返上しているらしいとはいえ、ブリタニアの皇兄殿下であった となれば実子クララ・ランフランクも世が世なら姫殿下となる 無職はバーテンと二人で巻き込まれた事件を通じてバーテンの周りにいる人たちの正体を知っていた どこの誰を見渡してもVIPばかりという恐ろしい人間関係だった バーテン自身は何も知らない だがしかし、知らないで良いと皇兄殿下、V.V.は無職に伝えていた 知らない方が誰しもにとっても幸せで 気兼ねなく接する事ができるだろうと 馬鹿ゆえに気づかない 生来の鈍感力が良き方向へと彼を導いているのだ そんなバーテンにとっての最良の環境が生まれていた 「まーた怒られるような事したんだろ」 普通の一般人にしては有り得るはずのない滅茶苦茶な交遊関係を持つそんなバーテンは、入院中何度もV.V.に怒られていた 飲酒で怒られ 誰ぞに馬券を買いに行かせては怒られ ナースにセクハラしては怒られ 娘をベッドに連れ込んだと誤解されては殺されかけ まさに自業自得の連続だった クララをベッドに連れ込んだのは誤解から生じたすれ違いだが、大体は考えなしの彼が悪いに帰結するので、無職もバーテンの性格と無計画ないい加減具合を目の当たりにし理解させられていた V.V.おじさんが怒る=バーテンが悪い 話はそれで終わってしまうのだと 「なにやらかしたんだよ」 「マリーに5万借りたんだ。そしたらよ、その日の内におっさんちに呼び出されてマリーと一緒に一時間正座強要、くどくど説教されながら俺だけ4,5発いかれた」 「…おまえすげーな…」 「なにが?」 「いや…」 一国のお姫様に平気でお金貸してと言える無神経さがだよ!とは無職も言えなかった 彼の周囲の人間関係についてを彼自身も入れて誰にも口外しないようにと言い含められているから 「クララが俺を甘やかしてるって怒られて俺に金貸すの禁止されたって言うもんだからマリーを頼ったわけよ。したらば今度は俺も呼び出し受けて、俺みたいに無計画な金遣いをしてる人間の金の貸し借りは信用の切り売りに繋がる。お互いのために良くないからやめろって借りたばっかの金をマリーに返させられちまってさ」 「おじさんの言うとおりじゃんか。大体なんで借金しなきゃならないくらいにまで使い込みするわけ?」 「5と9が来ると思ったんだよ!」 「やっぱしギャンブルかー!!」 バーテンはギャンブルが好きである 生活費を使い込むほどにやらかしてしまうくらいには リアルで初対面したオフ会が競艇だから言わずもがなであるが 「クララからも生活費を使い込むなって注意された」 「へー、あのおまえには駄々甘なクララさんがね」 クララとはまだ短い付き合いの無職だが、彼女の甘えっぷりは見ている方が恥ずかしくなるくらいだった 膝枕、耳掻き、抱き着きに頬擦り 胸に抱き止めて頭をなでなで 尽くす女だからと自分で言い切る彼女はとにかくバーテンに甘えまくるし、またなにかと彼に対して甘くもあった ついでにクララへと対抗するようにしてマリーベルもバーテンに対してそれはそれは甘い事この上ない有り様だ 病室で彼の唇を奪った事を皮切りに、彼を抱き寄せ胸に掻き抱いたりして甘えるその姿からは 世界最先端をゆく倉崎重工の技術をふんだんに盛り込まれているらしい、エルファバという巨大な空中戦用のナイトメアを駆使して、テロリストを相手に大立ち回りをする勇ましさなど微塵も感じられなかった (二人とも甘やかせ過ぎてるんだろうな) V.V.やマリーベルの筆頭騎士がブレーキを掛けて丁度いいくらいなのかもと、無職は無職なりに色恋とは無縁の人生を送りながらも考えさせられるほど、クララもマリーベルもバーテンには甘いのだ (こんなのがどうしてあんな美少女や美女にモテるんだろ? 世の中理不尽だ) 世が世ならブリタニアのお姫様だったクララ・ランフランク 世も何もブリタニアのお姫様であるマリーベル・メル・ブリタニア 甲乙付けようにも付けられない美少女と美女が駄目男に恋をしている (あーなんか腹立ってきた) このヘンテコアンバランスな恋模様を密やかに応援はしている無職だったが、腹立たしいものは腹立たしい 鎌首をもたげる嫉妬に身を焦がそうとしていた無職はだがその直後にはバーテンの意外な一面に心を沈めさせられてしまう 「おかげでこんなのしか買えなかった」 バーテンが肩から下げていた鞄から色とりどりのキャンディが入ったキャンディボックスを二つ取り出したのだ 「絶ってーに使わんと残してた金で買ったやつなんだけどな。やっぱ返すもんは返さないと情けねーかなって」 一つは宝石箱のようなキャンディボックス もう一つは坪をかたどったような透明のキャンディボックス 「こっちには丸いキャンディがいっぱい入ってて、こっちには金平糖がいっぱい入ってんだよ」 バーテン的にはあれこれ悩んだが結局マシュマロよりもキャンディにした なにを? 勿論先月のお返しである 「まさかそれ、クララさんとマリーさんにか?」 「他に誰がいるよ」 「チョコ、もらってたの?」 「先月な」 「…」 淡々としたバーテンと、思わず殴りたくなった無職 だが無職は一方で称賛してもいた 称賛されたバーテンにはわからないが、金遣いの酷い彼が女性の為に絶対に使わないお金を避けて置いていた事実に無職は衝撃を受けたのだ 「殴るのまた今度にする」 「なんで殴られにゃならねんだ!」 「いや、全国のモテない男を代表して」 「なんの代表だよそりゃ!」 しかし二つのキャンディボックスはどちらがどちらへ渡るのか 無職の興味はそちらに移っていたのでこれはこれで良かったのだろう 「丸いキャンディの入ってるキャンディボックスがクララで、金平糖のがマリーだ」 「意味でもあるのか?」 「金平糖についてはマリーが好きな飴だからだ。クララの方はちょっと悩んだけどよ、マリーが飴だからクララも飴かなってな。安直だが飴と飴なら公平だろ」 にししと笑うバーテンに彼なりに考えてそうしたらしいと分かった無職は聞いていた 「なあ、おまえさあ、どっちが好きなの?」 「は? なんだよいきなり」 「クララさんとマリーさんのどっちが好きなのかって話。真面目な話だぞ」 急な話に押し黙るバーテン そんな事を聞かれても困る 好みと外れてるし そう言い訳をしそうになるも言葉にならなかった 「あー、うーん。や、あのさぁ、怒んなよ?」 「怒らないよ」 答えにくかったがバーテンは答えた 「今までろくに考えたことなかったんだよ。クララもマリーもなんつーか妹って感じで。マリーと再会したのはつい最近の事だからまあまだしも、クララとはあいつが小学生の頃から遊んでやってたから。二人とも好みのタイプからは外れてるし、でもな、なんかこう…なんつーの…? あーなんつったらいいのかわかんねー。モヤモヤしてる。あいつらの気持ちは嬉しいし、あいつらとキスしてから変に意識しちまって、昔好きだった女の子の事を考えてたときと感覚的には似てるんだが、なんかもやーっとしてるみたいな…おまえ分かる?この感じ」 「逆質されても分からないって。俺、女の子に好かれた事ないし恋愛経験無しだから。単純にどっちが好きなのかなって思っただけなんだ」 「そっかあー」 話はすぐに終わりを迎えてしまった
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幸せ撲滅運動しないで先輩、出会いです!編 378 名前:◆G9YgWqpN7Y [sage] 投稿日:2009/09/01(火) 11 29 18 ID 4X0g/c94 「それではこれで、失礼しましたー」 「失礼しましたー」 放課後の美術部、そこに珍しく部活動見学にきた一組の男女がいた。 その一組の男女の名は――なんだっけ? ともかく、ごく自然に先輩、後輩と呼ばれるようになった二人が部活動見学から帰るところだ。 美術部について一通り説明した鈴絵が、見送りのためドアの近くにやってきている。 美術部には今のところ鈴絵しか部員がいない。おバカ3人組は予定通り逃げることにしたらしい。 「ええ、入部しなくてもいいからまた遊びに来て下さいね。先輩君、後輩ちゃん」 目を弓のようにし、ふわりと笑いながら、鈴絵は別れの挨拶をする。 それに対し、 「いやいや鈴絵部長の方が先輩ですから! なんで鈴絵部長まで先輩って呼ぶんですか! 」 先輩は思わず突っ込みを入れる。 「ふふふっ。いつもそう呼ばれてるから、つい……そういえばお名前なんでしたっけ」 「……おぼえて下さいよ? 俺の名前は――」 「先輩! 行きますよっ!」 「おっと甘いっ!――ととっ」 「あ……大丈夫? 部長としてはそんな無理して避けないでもいいと思いますよ」 急きょ露骨に腕を組もうとする後輩に対し、先輩は一瞬の判断で体を半歩ひねり回避。 しかし、体勢が悪かったのか僅かにバランスを崩す。 後輩は即断で先輩の肩へと手を伸ばす。狙いはそのまま抱きしめる格好になること。 しかし、先輩は反射的に避けようとしさらに上半身を逸らす。 結果、完全にバランスを崩した先輩は鈴絵に寄りかかる格好になっていた。 「あ、すいません鈴絵部長。いえこれはもう条件反射みたいなもので――」 「先輩! 行きますよっ!」 「わかったわかった。ええい、さりげなく手を引っ張るな。だからって組もうとするな!」 こうして後輩に引っ張られるような形で先輩は美術部を後にする。 その姿をにこにこと手を振りながら見送っていた鈴絵は二人が見えなくなるとふと溜息をついた。 「今回もきっとダメでしたわねぇ」 「だろうな」 「!! びっくりしますから気配消しながら近づかないでください。台先輩」 急に現れた台に対し、鈴絵は思わず半歩下がりつつ文句を言った。 それに対し、台は素直に頭を下げる。 「む、すまん。さっきまでカップルを尾行してたのでな」 「……なるほど。って、美術部放っておいてなにしていますか」 「俺たちはいないことがメリットだからな。美術部に貢献してると言える」 「……そうですか……はぁ」 鈴絵はさらに溜息を吐くと台をじと目で見上げる。 その不満げな様子を台は受け流しつつ言葉を続ける。 「それはともかく、俺の嫉妬メーターが微妙に反応したからここにやってきたわけだが、あの二人が原因か?」 「なんですか嫉妬メーターって。私にわかるわけがないじゃないですか」 呆れたようにいう鈴絵。台は何か考えるように視線を下に向けている。 「まあいいです。とりあえず中に入りましょうよ。ここに立っててもしょうがないですよ」 「ま、そうだな」 二人は中へと戻り、それぞれの椅子に着く。 しばらく二人とも絵を描く準備をしていたが、ふと鈴絵が話しかけた。 「そういえば、台先輩はあの二人を見てどう思います?」 鈴絵のどう、という抽象的な問いに台は的確に答える。 「そうだな……まだまだランクは低いな。要監視ではあるがそれ以上でもない」 「あれ? そうですか? 校内ではすでにバカップルって噂ですけど」 「将来的にはそうなるかもしれんが、まだまだ漫才コンビレベルだと見ている」 「へぇー、珍しくずいぶん辛口ですね」 「女の方がかなりの演技者、策士でな。そのせいで逆に先に進んでないような感じだ。 外堀はほぼ埋まっているからそれも時間の問題だとはいえるが……。 まったく、もっと進めば遠慮なくシメに行けるのだがな」 「それは行かなくていいですから」 つまらなそうに話す台に鈴絵はバッサリ切り捨てる。 台はしばらく無言でいたが、ふと鈴絵に尋ねた。 「そういえば部長はあの男の方をしっていたようだが?」 「先輩君ですか? どうしてそう思います?」 「なに、俺の説明をあっさり納得してたからな。 あれだけ噂されていれば、俺の言葉といえどそう簡単には信じないはずだ。 それに会話が初対面相手とも思えなかった」 その台の言葉に鈴絵は首を少しだけ傾け、軽く唸る。 「うーん。台先輩の観察眼だけは確かですから別に信用しますけどね。 ともかく何回か会ったことがありますよ」 「なるほど」 またしばらく無言の時間が過ぎる。 結局先に口を開いたのは鈴絵の方だった。 「……聞きたいですか?」 「そうだな」 「いいですよ」 鈴絵はかばんから水筒を取り出しお茶を出す。台の方は美術部に密かに置いてあるせんべいを開ける。 二人してずずっとお茶を飲みながら、鈴絵は話し始めた。 「そうですね、初めて会ったのが半年くらい前だったかな……」 ■ ■ ■ 朝の日課として境内の掃除をしている鈴絵は、その日も巫女装束姿で普通に掃除をしていた。 ふと人の気配を感じ階段の方へと目を向ける。 そこには一人の学生らしき人物がきょろきょろとあたりを見回しながら隠れるように歩いている。 何かに見つかってはいけないような感じで、周りを注意深く見まわしている。 なんというか、明らかに挙動不審。 「うーん」 しばらく考えてていた鈴絵だったがしばらくしてトコトコと近づくと、 「どうしました?」 声を掛ける。 「のわっ……あ、違ったか。良かった」 「? なんのことか分からないですけど挙動不審すぎですよ」 「……俺、そんなに挙動不審だったか」 バツが悪そうに顔を顰める少年。 その様子に軽い含み笑いを漏らす鈴絵。ふと少年の服装に気づく。 「あら、その制服、仁科学園のですね。登校には早いんじゃないかしら」 「ははは……ちょっと事情がありまして」 適当にごまかそうとする少年に首を傾げる鈴絵。 少年は誤魔化すためにさらに言葉を続ける。 「まあ、このまま行っても暇なんですけどね」 「なるほど。それなら神社の掃除、手伝っていきませんか」 「……そこでどうして"それなら"になりますか?」 鈴絵の唐突な提案に少年は思わずつっこむ。 それに対し、鈴絵は極真面目に答える。 「暇なら体を動かしたほうがいいですよ。ほら、健康にもいいですし」 「本当はそう言ってサボりたいだけなんじゃないですか?」 「違いますよ。あまりに挙動不審だったので、そのまま歩いてると職質されそうでしたので……」 「そこまで挙動不審でした!?」 「はい」 ずーんと微妙に落ち込んでるような少年に、鈴絵はさっさと箒を持たすと境内に戻る。 少年も迷ったようだが最後にはついてきた。 そしてついて行きながら口を開く。 「でも、時間忘れて遅刻したらまずいよな。いいわけにもならないし」 「そこは大丈夫です。私も生徒ですから」 「えっ?」 「えっ?」 なぜか微妙に凹んだ鈴絵だった。 ■ ■ ■ 「――そんな感じで先輩君とは会いましたね。それから何回か会ってますよ」 鈴絵は話し終えると、せんべいを一枚取りカリッと食べる。 それまで黙って聞いていた台は、ずずっとお茶を飲み干してから口を開く。 「一つ聞いていいか?」 「はい?」 「そのとき一緒に登校したか?」 「はい。そうですがなにか?」 その答えに、台は納得のいった顔になる。 「あー、なるほど。これで疑問は解決した」 その言葉に今度は鈴絵の方が不審の顔になる。 「えと、どういうことですか?」 「いや、なんでもない。部長には関係あるが関係ないことだ」 「どっちなんですか~!」 鈴絵は疑問の声を出すが台はすでにスルー。油絵を描くために移動する。 「うむ、今日はよく寝れそうだ」 「だからなんのことですかー!」 今日も美術部は微妙に騒がしいのだった。 前:幸せ撲滅運動行動編(後編)、っぽいもの 次:先輩、部活動見学です!(3)